SM小説 鞭化粧

泣きむせぶ女たちの夢つづり。本格SM小説集。

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ギボン家を継ぐ女(九話) 

九話 ギボン家の夜明け


そしてその日、午後になって、買い物があるというアリシアの供
をして、グラントは街に出た。めずらしくすっきり晴れた清々し
い森の中を一時間ほど馬車で行く。馬車を操るのは護衛の兵
士が2人。グラントはすでに特別な扱いを受けていると感じてい
た。ギボン家の男として、本来なら剣など身につけて行かなけ
ればならなかったが、グラントは丸腰だった。
街中を兵士2人を伴って四人で歩いていると、アリシアと知っ
て頭を下げる者たちも多い。騎士ギボンへの尊敬がそうさせる
のだ。しかしグラントにとって、それはいかにも荷が重い。
人々の目から逃げるように細々とした買い物を済ませ、戻った
時には夕食前。屋敷の表庭に格式の高い軍の馬車が停めら
れていた。客人だった。
 
「あら、お帰り」
円卓のある広間を覗くと、外行きの赤いドレスをまとったイライ
ザが、明らかに上級士官と思われる軍服姿の男を相手に談笑
していた。男は40代。髭をたくわえた凛々しい姿だ。
アリシアは一目見るなり笑顔で駆け寄り、スカートを少し上げる
仕草で明るい声を上げるのだった。
「あら、おじさまぁ! よこうそ!」
「おおアリシアか! 綺麗になったなぁ・・・うん、惚れ惚れする」
「嬉しいわぁ! うふふっ!」
そしてその男は、アリシアの背後に立つ見慣れない小僧を横
目でじろりと一瞥した。軍人らしい鋭い眼差し・・・というよりも探
るような目線であった。
「で、イライザ、そちらは?」
「ああ、いま・・・」 イライザはアリシアに席を外すよう言うと、グラ
ントには逆に着席するよう言いつけた。

「ご紹介しますわね、こちらはグラント、18歳の青年で、私の恋
人・・・」
「恋人だとぉ」 男が驚いた声を上げて目を丸くする。
「・・・ではなくて、うふふ・・・アリシアのお友達なんですよ。素敵
な男性でしょう。アリシアのお婿さんにどうかと考えているほどな
んですよ」
「ほほう・・・アリシアの・・・ほほう・・・」と言って、今度は柔和な視
線をグラントに向けていく。
「グラントにもね、こちらは英国海軍、アーサー准将、亡き夫の
無二の親友なんですよ。男爵でおいでです」
グラントは背筋に寒いものを感じていた。アーサー准将と言え
ば、その名は英雄として轟いている。やはりギボン家、格が違
うと思うのだった。
そして案の定、アーサーの目的はイライザであるらしく、グラント
のことなどそっちのけで会話が続く。2人が来たとき、ちょうどそ
の話の途中であった。

「でまあ・・・困っておるのだよ。このところドーバー海峡をめぐっ
てフランスとギクシャクしておってな。こちらはあくまで海賊退治
のために軍船を出しておるのに、きゃつらはそうは思っておら
ん。過敏なのだよ対応が」
「そうですの・・・それでその海賊というのは?」
「国籍など端から不明・・・ともかく海峡を通る船を襲うのだが、
こいつらにもいくつかあって、それぞれが別の一派。神出鬼没
である上に、相手が違うとなれば、こちらとしても軍で応じるしか
ないのでね。それをフランスは敵対行為だとぬかしおる。・・・と
言って軍を退けば海峡は無法地帯と化すだろう・・・困ったもの
だよ」
「その指揮が准将に?」
「うむ、おはちが廻ってきたと言うことか・・・私としては軍はもっ
と軍らしいことをやるべきだと思うのだが・・・いやいや、久しぶり
に会えたのにつまらん話をしてしまった。それでは私はそろそ
ろ退き上げるとするよ」
と言って席を立ちかけたとき、さりげなくグラントが言った。

「それでしたら・・・」
イライザは慌てて抑えようとしたが遅かった。
「うむ? 何だね? 君に考えでもあるのかね?」
「はい・・・あ、いえ、ちょっと思っただけなのですが・・・」
「かまわん、言ってみなさい」
男はまた座り直し、今度はグラントに正対して目を見つめた。
「グラント、あなたいったい何を・・・」とイライザが言ったのだが。
「いや、いいのだ、部外者の意見も聞いてみたい。それで君は
どうしろと?」
「海賊ごときに軍を出すからいけないのです・・・いっそ海賊ど
ものどれか一派を雇ってしまえばどうでしょう」
「海賊を雇うだと? イギリスの海は我らが守る。プライドにかけ
て海賊ごときに・・・ふっふっふ、やはり素人だ、海賊を雇うとき
た、はっはっはっ!」
「それがいけないのです」
「何・・・」
男が真顔で睨みつけた。間にいてイライザは気が気ではない。
 
「海峡を守るという面子のもとに軍を振り回すから敵国に疎まれ
る。海賊は食べるために悪さをします。聞けば、その海賊もひ
とつではない様子。であるなら、いずれかひとつの海賊に、軍
船ではない戦うための小船や武具を与えてやって、身分と住
むところを保証してやった上で、海峡警備にあたらせるのです。
海賊のことは海賊がいちばんよく知っている。そしてその海賊
警備隊の背後で正規軍が睨みをきかす」
「先鋒を傭兵に任せておいて我々は一歩退けと?」
「はい、そうです。軍船は得てして大型で、小回りのきく海賊船
相手では不利でしょうし、何よりいまの英国は硬直化し過ぎて
います。もっと平民の力を使うべきだと思うのですよ。平民であ
る海賊警備隊に軍服は無用です。したがって敵となる海賊ども
も気を許す。兵士ではなく、あくまで警備隊・・・個人的なボディ
ガードの延長のようなものだ思えばいいでしょう」

男はしばし沈黙し、横目でイライザを見つめて少し笑った。
「なるほど・・・海賊どもに軍服は無用か・・・毒には毒というわけ
だな」
「はい」
「ごめんなさいね、子供のくせにわかったような・・・」 とイライザ
が恐縮したとき、男が声を上げて笑った。
「君の名をもう一度」
「グラントです」
「18だとか?」
「はい。父は陸軍ですが平民の出で、私は騎士を目指してい
るのですが、戦いが嫌いで剣が苦手で・・・」
「ふふふ・・・はっはっはっ! ますます面白い! グラント君」
「はい?」
「戦いは必ずしも剣ではない。策略をめぐらせて頭脳で貢献す
る勇者だっておるのだよ。うむ、わかった、海賊警備隊か・・・ま
ったく真逆の発想だ・・・うむ、面白い! はっはっはっ!」
そして男はイライザに言った。
「素晴らしい若者だ、ギボン家の未来も明るいな」 とそれだけ
言って男は立ち、イライザの手を取ってキスをして背を向けた。

去って行く男を目で追うグラントの横顔を、イライザは眩しそうに
見つめていた。
この子は異才・・・そこらの男たちとは質が違う・・・と。
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